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2008年06月の日記
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●2008年06月24日(火)


… 最終更新 - 7/11 PM. 11:50 …


6月21日の『スター・レッド』日記の続き。
☆ 以下の「 」内の言葉は、萩尾望都『スター・レッド』より


<少数派を排斥する多数派の勘違い>

たいてい多数派は、自分たちとは異なる少数派を排斥しようとする。
そのテの多数派にとって、少数派は全体の調和を乱す危険なもの。
その心理は、排斥する側の多数派の集団に限らず、
排斥される側の少数派の集団にもある。


ゼスヌセルの異星人たちは、
大きなパワーの超能力の種を排斥しようとする。
「世界をよりよく保つ」ために、「忌むべき存在」を。

でもそれは、排斥される側の少数派の火星人とて同じ。
一族の調和と存続のために、たとえ仲間でも、
意見の異なる少数派や、多数が「災い」と予言した者を
排除しようとする。

ゼスヌセルの異星人の場合↓


ゼスヌセルの異星人が火星人セイに言う。

「おまえたちは全てを破壊していく」
「おまえたちは魔の星に住む、忌むべき魔の群れ」

「存在すること自体が──悪だ」
「おまえたちは、物質を切り裂くように」
「人の精神も手につかみ、切り裂いていく」

「おまえの周辺には、おまえの行動に影響される人間が必ずいる」
「おまえはその能力で、人間の深みからの魔物を呼び覚ます」
「英知や徳や理性がおしこめた影の部分を、とくと広げてみせる」

「巨大な超精神能力をもつことは、宇宙の法則に反する」
「異常であり、異形であり、あるべからざるものだ」

たしかに魔の星に住む超能力の種のパワーは、大きすぎて危険。
異星人の言い分も、半分はもっともかも。
特に、第五世代のセイのパワーは強大だし。
そのうえ、セイは地球人のあいだで育ったから、
能力のコントロール法が、まだ身についていない。

何かのキッカケで、強い想いがセイの心でスパークするとき、
コントロールしきれないセイのパワー=超精神波は
物質や人の心を大きく揺さぶってしまう。

魔の星では、世代を経るごとに能力のパワーが増すから、
住民の能力の危険度は増していくことになる。
それを防ぐことは、もちろん必要だけど、
その方法が問題。 彼らへの見方も問題。



異星人たちは、マイナス面しか見てない。
でも、その見方だけが正しいと信じて、押しつけてくる。

マイナス面とプラス面は表裏一体なのに。
「あるべからざる」と決めつけられた超能力の種は、
「あるべからざる」とされる、その同じ能力によって、
救いの奇跡も起こせるのだから。


これは悪、これは善って、決めつけてしまうと楽だものね。
どちらとも言えないっていうのは、不安だもの。
どちらとも言えない場合の方が多い、と思うんだけど、
人はすぐに、悪人と善人とにスパッと分けて、
安心したがる…。




「忌むべき」、「存在自体が悪」、「異常」、「あるべからざる」、「悪魔」
「猛獣」、「調整」、「半獣人」、「群れ」、「幼い種」…。

ゼスヌセルの異星人たちが、火星人セイ、黒羽、
別の魔の星出身エルグに投げつけた言葉。
なんて傲慢。 なんて失礼。

異星人たちは、本当は
超能力の種をおそれているのに、蔑視しようとする。
いえ…、おそれているから、蔑視したがる。
そもそも、おそれているから、排斥しようとする。




異星人が火星人の黒羽に言う。

「おまえたちを救うためにやるのだ」
「あの赤色螢星にいればいるほど」
「おまえたちは魔物に化身していくのだ」

おまえたちのため…、
人がそんなことを言うときは、たいてい自分たちのため。

現にエルグは、彼らに救われたとは思っていない。

もちろん、ゼスヌセルの異星人は、
自分たちにとっても、相手にとっても、世界全体のためにも、
正しいこと、善いことをしていると、信じてるんだろうけど、
まぁ、人はみな、そう信じて行動してるんだろうけど、

ゼスヌセルの異星人の場合、
まるで宇宙に君臨しているかのように、
みずからを絶対視しすぎてるような気がする。
だから、錯覚に気づけない。 自分たちの弱さにも気づけない。

PM.11:59

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●2008年06月21日(土)


… 最終更新 - 7/9 PM. 11:49 …


6月14日の『スター・レッド』日記の続き。

<本能的な不安と恐れが、心に魔物を育てる>

人の心には魔物が棲む。
夢魔のエネルギーの元が潜んでいる。

憎しみ合い、殺し合い、食い合う、魔の部分。

そのエネルギーが集合したら…、おそろしい集団心理になる。
一人ひとりが呑み込まれ、エスカレートしていく。
どんな集団も、その危険をはらんでいる。



『スター・レッド』では、
負の集団心理のエスカレートが極限になれば
どうなるか、シュミレート
してくれてるようなもん?
赤い星に巣くって魔を進行させる、超次元の巨大な精神生命体アミ…、
精神エネルギーの大きい超能力者…という設定で。

人がもともと持つ魔の部分の精神エネルギーに
アミが絡んで、集合強大化したのが夢魔
だと思うんだけど、
それって、負の集団心理のエネルギーが強大化して、
一人ひとりを呑み込んで操るのと
似てるような気がするのよね。



火星人は、火星が失われることを予知し、
夢魔の作用が起こる前に、火星から離れたから、
アミの巣で夢魔にとりつかれることは免れた。
でも、その遙か昔、エルグの赤い星では、
超能力の種の住民が、夢魔のエネルギーにやられた。

彼らは、精神エネルギーが大きいから、
負の集団心理のエネルギーも大きくなってしまう。

そして、テレパシー能力も強いから、
アミによって更に増幅された、負の集団心理のエネルギーを
もろにあびてしまい、精神のコントロールがきかなくなり、
憎しみ合い、殺し合い、食い合って、
…たぶん、崩壊寸前になった。

もちろん、魔とは逆の精神エネルギーも大きいはずだから、
彼らの能力は両刃の刃で、救いの奇跡も起こせるのだけど。



また、もともと超能力はなくても、
高度な科学文明を持つだけでは飽きたらず、
超能力をも得ようと、宇宙の外から超精神生命体アミを呼び寄せ、
その力を利用しようとして、失敗して滅びた古代の星々
の話もでてくる。

アミが巣くった星々の末路は、決まって壊滅…。
もともと人が持つ、夢魔のエネルギーの元と、
それを増幅進行させるアミによって生じる
夢魔にとりつかれて。



エルグは夢魔のおそろしさ、人の心のおそろしさを
子供の頃に、きっと嫌というほど体験したせいかなぁ。
自分自身や自分の星を、愛しきれなくなって
しまっていたような気がする。

エルグの6千年の孤独は、長さだけじゃなく、
その深さも暗示してるように思える。 この話は、またそのうち。

深夜.24:56

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●2008年06月14日(土)


… 最終更新 - 7/8 PM. 11:55 …


6月8日の『スター・レッド』日記の続き

<危険な要素と救いの要素を併せもつ、両刃の刃>

アミ =古代のある種族の異星人が、異次元から呼び寄せた
形のない巨大な超精神生命体。 赤色螢星に巣くって魔の星にする。
魔の星では、大きなパワーの超能力を持つ種が誕生することがある。
その種は、世代を経るごとに超能力のパワーを増していくが、
その星に住み続けていると、いずれ夢魔にとりつかれてしまう。

☆ 以下の「 」内の言葉は、萩尾望都『スター・レッド』より



火星の“夢見たち”のつえが鳴る。
彼らの精神波が1つの未来を予知し、つえが共鳴する。
「災いの月がのぼる」

シラサギが、ひとり共鳴からはずれる。 異なる夢をみる。
「それをふせぐことはできる」…シラサギ
「ふせぐことはできない」…他の夢見たち
「すべがある」…シラサギ
「すべはない」…他の夢見たち

…果たして、すべはあったんだろうか。



魔の星、火星は砕かれた。
でも、火星人は“調整”されずにすんだ。
ゼスヌセルの異星人から、超能力を封じられることは防げた。

でも、もともと“調整”なんて必要ない。 火星がなくなるのなら。
だって、それ以上、魔は進行しないのだから。
なぜ、調整なんかしようとする?

高等な種のつもりでいる
あの異星人たちは、超能力者をおそれている?
「忌むべき存在」「世界をよりよく保つ」なんて言いながら。
そして、火星や火星人を「あるべらかざる」って?

そんなこと決めつけられない。
生まれてきた意味、存在している意味など、わからない
のだから。
「なんらかの答えを用意することはできる」
「でも、本当の意味など、だれも知らない」…エルグ

異星人たちは、都合のいい意味づけをしてるだけ。
人はみな、そうだろうけど、
そのことを自覚してるかどうかで、違ってくると思う。
意味なんて相対的なもの、真実なんて人の数だけある、っていうことを。



アミが巣くう赤い魔の星に住む
超能力を持つ種、たとえば火星人、
彼らの超能力の大きなパワーは、両刃の刃。 きっと。

自らを滅ぼすほどの危険な要素と、
奇跡をおこせる素晴らしい要素を併せ持ってる。 きっと。


確かに危険の方が大きい。
夢魔は、人の心の産物なのだから。
夢魔とは、嵐のように押しよせる影、
憎しみ合い、殺し合い、食い合う、精神エネルギー。

その影を見た者たちは、夢魔にとりつかれ、
精神のコントロールがきかなくなり、滅ぼし合う。



…あれじゃ、エルグは救われないと思ってたけど、
本当は、エルグは救われたのかもしれない。

自分で自分を救ったのかも。
セイを愛する強い想いで。

エルグの星もアミの巣だったので、
エルグも火星人のような超能力の種だった。
ゼスヌセルの異星人によって、危険なテレパシー能力を封じられ、
自らも、その封印を解こうとはしなかった。
他人の精神をまさぐる方がおそろしい…と。

そうかもしれない。 でも、それだけじゃなく、
自分自身をおそれているとこがあった。



火星の未来の精神荒廃を避けようとして行った、
アミが巣くう元になった古代の惑星、死んだ惑星ネクラ・パスタで、
セイを失ったエルグ。 そして…。

「セイ…、おまえを愛している」
「ぼくは今から、くるうことにする」
「ぼくの精神を封じてきたいましめを、今とくことにする」
「惑星の共鳴がぼくをつかまえ、ひきこむにまかせよう」
「ぼくがおそれていた、無、暗黒、狂気へ」

その惑星で、テレパシー能力を解放すると、
惑星の共鳴につかまり、引き込まれてしまう。

「存在していれば、なにかが見つかるかもしれないと思った」
「そして、きみに出会った」
「一つの星、一つの運命に恋している少女」
「きみを独り占めし、数千年の孤独をすべてうめたかった」

「…セイ、きみを心から大切に思う」
「…心からだ…」

封印を解き、精神を解放したエルグは、
セイへの、ありったけの想いを世界に放つ。

「この惑星のどこかにいるのなら…」
「また、この宇宙のどこかにいるのなら…」
「うけとっておくれ」
「ぼくは──すべての柱に地に──、きざみこむ」
「──きみを愛していると」

エルグはその能力で、魔の惑星に刻み込む。
夢魔のエネルギーと逆のエネルギーを。
愛し合い、許し合い、与え合う、精神エネルギー。


「セイ、きみを愛している…」
「──ぼくは、美しい星に住む美しい生命でありたかった」
「セイ、きみを愛している…」
「──ぼくは、祝福されて光と水の中にいつまでもいたかった」
「きみを愛している…」

そして、遠い未来、
その惑星は息を吹き返す。 水が流れ、芝草が茂る。



人は生を受けた途端、死という終末へ歩き出す。
不安な生き物。 だから、負のエネルギーの方が強いのかも。
憎しみ合い、殺し合い、食い合う、精神エネルギーの方が、
愛し合い、許し合い、与え合う、精神エネルギーよりも。

でも、エルグは死?を目前にしながらも、
愛の方のエネルギーを心に満たし、世界へ拡げようとした。

あの愛のエネルギーが、
アミの負のエネルギーを逆のエネルギーに変化させたのか?

両刃の刃の、良い方・弱い方の側面がまさったのか?
シラサギの言う「すべ」があったということか?

少なくとも、惑星ネクラ・パスタのアミを変えたのか?
それは希望、そして証明。 …「あるべからざる」ではない、という。

深夜.24:27

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●2008年06月08日(日)


… 最終更新 - 7/5 PM. 11:47 …


萩尾望都の『スター・レッド』
『ポーの一族』の次に好きな作品。



セイ。 火星で生まれ、地球で育った火星人の少女。
彼女は、自分が自分でいられるはずの故郷、火星に恋い焦がれる。
ある日、エルグという謎めいた青年に出会い、
セイは思いがけず突然、火星へ帰れることになる。
でも、火星は失われる運命だった。

エルグ。 同族も自分の星も失い、
6千年もひとり、辺境の星々をさまよっていた異星人。
エルグも火星人と同じく、忌むべき存在とされる
超能力を持つ種族だった。

エルグは、6千年もの旅路の果て、
自分の新しい星、故郷、救いにやっと出会う。 それはセイ。
でも、セイはエルグの前から失われてしまった。



10年も恋し続けた火星に、やっと帰れたセイ。
でも、愛する火星はもうすぐ失われてしまう。
運命を変えようとしたセイたち。
でも、守りきれなかった。

途方もない孤独の果て、やっとセイに巡り会えたエルグ。
でも、愛するセイはあっという間に失われてしまう。

エドガーのように、不死のエルグ。
何もない死んだ惑星、想いを共鳴させ増幅させる魔の惑星に、
世の終わりまで、たった一人、取り残されることになったエルグ。

初めて読んだ学生の頃から、
ラストのエルグの想いと運命が、一番こころに痛かった。
今は、もっと痛い。 もっと沁みる。

…だって、たろーにゃんこ。

深夜.25:52

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